2024年9月の記事一覧
児童書のおすすめ(9月24日)
書名 :最後の語り部
著者 :ドナ・バーバ・ヒグエラ/著 杉田七重/訳
東京創元社
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彗星が地球に衝突するとわかり、一部の選ばれた人々は、別の惑星を目指して旅立つことになりました。主人公のペトラも選ばれたひとりです。そのころ地球では、多様性を否定し、コレクティブという単一社会をつくる、という運動が広がっていました。
ペトラはいつもお話を語ってくれた祖母を残し、自分の目がほかの人とは違う見え方であることを秘密にして、宇宙船に乗り込みます。眠っている間に目的地へ着く予定でしたが、381年経って目覚めたとき、コレクティブの人々が船内を支配していました。地球から来たペトラ以外の人たちは、眠っている間に記憶を消され、従わない者は排除されていたのです。
ペトラは自分に地球の記憶が残っていることを気づかれないよう注意しながら、コレクティブ社会からの脱出を計画します。それを支えてくれたのが、祖母が語ってくれたお話でした。
受け継がれるお話の力強さを感じることができる、読み応えのある物語です。
児童書のおすすめ(9月17日)
書名 :給食が教えてくれたこと
著者 :松丸 奨/著
くもん出版
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私が給食で思い出すのは、毎月1回の「お楽しみ給食」。各クラス順番に好きなメニューをリクエストできたのです。でもみんな好きなメニューは似たり寄ったりで、ココアパンやゼリーなど、とにかく定番の人気メニューがよく登場していました。
さて、この本の著者の松丸さんは、給食の献立を考える栄養士さん。実は給食が大嫌いだったそうです。野菜も魚もお肉も嫌い! 苦手な食べ物が多すぎて、給食はほとんど食べられませんでした。そんな松丸さんに、栄養士さんがこう話してくれます。
「全部が無理なら、一口でも食べてみて。きっといいことが起こるよ。」
それからというもの、鉄棒の逆上がりができたり、テストでいい点がとれたり、背が伸びたり、風邪をひかなかったり、いいことは何でも給食のおかげだと思うようになりました。松丸さんが栄養士を目指したきっかけです。
栄養士の仕事のこと、それから皆さんに伝えたいこと。ぜひ手に取ってみてください。
児童書のおすすめ(9月10日)
書名 :長い長い夜
著者 :ルリ/作・絵 カン・バンファ/訳
小学館
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この物語は名前のないペンギンの「ぼく」と、その「父さん」たちのお話です。
最初に登場するのはシロサイのノードン。彼は理不尽な人間によって大切な家族や仲間を奪われてしまいます。それからの彼にとって、悪夢を見そうで眠れそうにない日は、夜がいっそう長くなるのでした。
ある日、ノードンは1匹のペンギン、チクと出会います。チクも人間同士の戦争によって、大切な仲間を失いますが、なんとか守ることのできた卵を運んでいました。2匹は戦争で火事になった動物園から逃げ出し、暗い悲しい気持ちの中、卵を守るため旅に出ます。
この旅の中で彼らは、家族や仲間との大切な想い出を語り合いながら、お互いを支え合っていきます。
そして、語り継がれた沢山の思い出は、卵だった「ぼく」を励まし、生きていく勇気をくれました。
私たち自身も、色んな出来事やたくさんの出会いがあって、今の自分がいるということに気づかせてくれるお話です。
児童書のおすすめ(9月3日)
書名 :コーリング・ユ-
著者 :永原 皓/文
集英社
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元気で賢いシャチの男の子「カイ」がこの物語の主人公。カイは好奇心旺盛な為、お金目的でシャチを捕獲していた漁師に捕まってしまいます。カイを心配した仲良しの従妹の「エル」は、わざと網に入りカイと一緒に捕まってしまうほどカイのことが大好きでした・・・・。人間の身勝手さにより家族から引き離されてしまったカイは、その魅力で、一つ一つ困難を克服していきます。
異種別であっても他者を思いやることのできる優しさや、苦境に立たされても決して希望を失わないカイの強さは、読者に真の勇気とは何かを鮮やかに印象づけ、又、対照的に彼の行動から、私利私欲の為に他者を傷つけても平気な人間の愚かさも浮き彫りになります。
地球に生きる全ての仲間が共存していること、その為に大切なことは何かを教え気付かせてくれる一冊です。読後は、カイに魅了されること間違いなしの、【第34回小説すばる新人賞】を受賞した作品です。